8年目の検証
飯塚康司(マイスター商業施設士)
東日本大震災から8年半。被災地各地は復興を掲げ、どこまで進んでいるのか、どの様に復興を進め歩んできたのか5年前に行われた視察研修コースを同じに今一度訪ねてみた。商業施設に携わる者として現地を検証してみたいと思う。
総括
復興は進んでいた所と未だ進まずの所あり。その内容は補助金を頼りに少し背伸びしたような箇所を感じるところも有る。が、それを超えて未来を真剣に描く姿も多く見られた。
それぞれの地には長い歴史と共に大切にしてきた地域の財産が有ったはず。復興にはそれを感じさせるものが少ない様に思える。各地同じ様な建築デザインで復興されている。本来商業施設は個性が溢れモノやコトが飛びかい交差し、人々が集う明るく楽しい所ではなかったろうか。生活者や観光客はその様な商業施設に出かけるものである。
これから来る人口減少の中で、住民と来訪者との繋がりを大切にし、将来の可能性を考えた街づくりをしなければ成るまい。震災特需は遠に終えたものの、マスコミから忘れられない内に、地域性を生かした商品開発やイベント等を行い、ここでなければ成らないと言い聞かせる商業施設にしなければ成るまい。
ここに至った事柄を視察した結果として下記に記す。
陸前高田市
700億円の復興事業、ベルトコンベアーで運ばれた砕石は被災地を高さTP12.5m嵩上げした。そこには商業施設が軒を連ねて復興し始めていた。シンプルで個性の薄い似た様な建築である。嵩上げ土地の利用決定は未だ3割である。土地の7割は中々先が読めない。
土地利用はどの様になっているのか。『アバッセたかた(2017年4月オープン)』『道の駅高田』『今泉地区商業集積(計画中でこれから建築が始まる)』の3地区を軸にトライアングルで結んで復興計画が進んでいる。
道の駅『高田松原』今年9月にオープンした。道の駅に併設された東日本大震災津波伝承館『いわてTSUNAMIメモリアル』コンセプトも良く見ごたえのある伝承館である。
震災前人口23,300人。2020年人口予測18,443人(データー:国立社会保障人口問題研究所)。
人口減少をどのように読み取り、将来の陸前高田の役割を、震災前を超える観光地とするのか。課題を突き付けられている様だ。
先日、中学生が台風19号被災地に向けて義援金募集をしていた。復興支援に駆けつけてくれた全国の方々に大きな感謝と共に「絆」の意味を深く感じ、若者たちが背負った陸前高田の未来は、はてしないものを感じる。
気仙沼市
鹿折商店街:震災前30店舗以上が軒を並べていた『カモメ通り商店街』は2017年3月までに6店舗がスタートしている。
当初中央に買い物道を作り左右に商業施設10区画を連ねての復興計画であった。近隣に復興住宅が立ち並び、すでにオープンしているお店を合わせスーパー2~3件の出店計画がある。『カモメ通り商店街』での再建を断念し駐車場にするという話も聞こえてくる。廃業に追いやられた商店も数多い。
船着き場として賑わっていた南町海岸周辺は様相を一転していた。気仙沼から離島大島に『気仙沼大島大橋』が架かり大島航路は2019年4月定期航路終了。港は震災前より賑わい感や人の動きの変化など未だ定まらない。
2020年3月までには地ビールやミニイベントホール、鮮魚販売店、飲食店など集積商業施設が随時オープンする予定地区。
南三陸町
株式会社南三陸まちづくり未来が運営する『ハマーレ歌津』『さんさん商店街』。
『ハマーレ歌津』は8店舗にて復興。集積業種にあまり魅力を感じない。生活者がどれだけ来店してくれるか。車で13分の移動先に地元スーパーが在る。商業施設として個性が薄く、さんさん商店街と変わらぬ建築デザインである。課題は個性的で魅力ある商品の品揃え、そして吸引力の有るイベント企画にて今後どれだけ人を呼べるか。その手腕に期待したい。
『さんさん商店街』は28店舗の集積商店。マスコミにも大きく取り上げられ来店の7割超える観光客が訪れる。生活用品を扱う店は少ない。側の『南三陸防災庁舎遺構』を眺められ観光の一部をなしている。海鮮食材や観光土産になりうる海産物やお菓子など多く並び観光客は食事込みで滞留時間2~3時間は過ごせそうである。
南三陸商工会会長山内正文様にご講演をお願いした。過去の津波経験をもとに、避難方法や復興へのシミュレーションを重ねていたようだ。街が全く無くなった状態での再建への速さには大いに学ぶべき処である。
女川町
市街化区域の88%、240haに及んだ被災区域、町民の8%に当たる827人が亡くなり、約7割の家屋が全壊した。女川は若者を中心に意見を取り入れ復興を試みた。
街の再生の第一歩としてJR女川駅が2015年3月オープンした。2016年12月に「はまテラス女川」がオープン。商業集積の中心をなしている。
温浴施設を併設する最終駅の女川駅を降りて港に向かう。駅広場を通り過ぎると左右に商業施設が立ち並びその先に海が見える。シンメトリーな景観に何か新鮮なものを感じる。建物は黒い外装デザイン、向き合う商店の中央には樹木をあしらった広場が有る。街の雰囲気は、整った商店街に感じる。大きなイベントには相応しい広場であるが、周辺には駐車場が少ない。普段では広さを感じて賑わいや温かさが少々感じられない。
平成22年人口10,051人。2020年人工予測8,055人(データー:国立社会保障人口問題研究所)人口減少とどう向き合うかが課題であろう。
石巻市
旧商店街は復興されたものの新築・改築店舗は見受けられず空き店舗が多くみられる。震災以前から郊外の蛇田地区に商業施設は移っていた。
北上川中洲の漫画館が復興されその向かい岸に堤防と一体になった商業施設『いしのまき元気いちば』が2017年6月オープンした。地元農産物や海産物、飲食店まで複合されておりその姿は物産館を呈している。この周辺は生活者も多く最寄り品の買い物客が予測される。但しスーパーに変貌しないことを期待したい。
中心市街地商業施設の中枢になるであろう『いしのまき元気いちば』副社長の松本様からお話を頂いた。言葉から受ける思いは、石巻を元気にすると言う使命を背負って立つ人ではないかと思えるエネルギーを感じた。
名取市閖上地区
40店舗軒を並べ2013年12月にオープンした「ゆりあげ港朝市」は毎週日曜日に開催される。近隣仙台市内や多賀城市、岩沼市などから順調にお客様を集めている。
土地利用計画2次防御ラインを挟んで海側(東)を工業用地、西側の57ha(嵩上げ部分TP5m=32ha)を住宅地と商業ゾーンとして復興。中心をなす商店街は名取川河川敷きを抱き込みながら『かわまちテラス閖上』として今年4月に25店舗でオープンした。飲食店、水産店、スイーツ、野菜マルシェ、美容室、コインランドリーなどの複合商店街としてのスタートである。その周りには店舗出店の工事が進んでいる。生鮮6品や日曜雑貨品は2020年4月にスーパー「ゆりあげの郷彩食館」がオープン(店舗面積1,279坪)する予定。人口もまだまだ僅かではあるが少しずつ戻る感がする。
軒を連ね復興にこぎつけた地元酒造会社、閖上の未来を背負って立つ40代、佐々木酒造店の専務様よりお話を聞いた。
すべてを失ったにもかかわらず強靭な精神力で復活されたストーリー。全国からの支援と国からの復興支援、人と人との「絆」を強く噛みしめていた。閖上の将来をこう在りたいと描く姿に明るい未来を感じた。
最後に
復興は短時間で判断するものではない。時間をかけて築き上げ続ける物である。
『これまでの歴史と今回の震災復興、そしてこれからの未来を背負って生きて行かねば成らない。』その覚悟を子供達や若者から感じられたことが、未来に期待する心を熱くした。
佐々木酒造店様を囲んで 今回の視察参加者
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